Story 06. 鮮やかな赤と清らかな白。一目惚れした紅白水引のしめ飾り

小さなブーケを愛用のゴブレットに活けてみる。覚えたてのカリグラフィーでカードを書いてみる。毎日は、小さな「何か」の積み重ねで、一歩ずつ、素敵に近づいていきます。ほんの少し手をかけて迎える明日は、今日よりもっと愛おしい。これはそんな暮らしのシーンと、心がときめく瞬間を追いかけたショート・ストーリーです。

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新年を迎える準備のことを「春支度」っていうらしい。冬なのに春?と不思議に思ったけれど、陰暦では1月が春だったと聞いて納得。だから、年賀状にも初春とか迎春とか書くのかもしれない。

一瞬にして恋に落ちた、美しいしめ飾り

春支度のひとつに、しめ飾りがある。五穀豊穣の神といわれる年神様をお迎えするためのもので、向こう一年、家を守り、邪気や災いが近づかないように、魔除けや結界のような役割があると聞いた。

しめ飾りの由来に興味を覚え、いろいろ探してみようと思いつつ、慌ただしい師走はあっという間に通り過ぎる。門松、鏡餅、賀正紙と、さまざまなお正月飾りが立ち並ぶ商店街を年越し間際にウロウロするのが、恒例のイベントになってしまっていた。ああ、今年もまたこのパターンを繰り返してしまう、と嫌気がさしていたとき、思いがけない出来事が起きた。世にも美しいしめ飾りに出会ってしまったのだ。一瞬にして、恋に落ちた。そう言ってもいい。まさに一目惚れだった。

そのしめ飾りは、よく見かける藁のしめ繩ではなくて、鮮やかな紅白の水引で作られていた。赤と白の水引がピシッと切りそろえられた姿は、えもいわれぬ凛々しさを湛えている。

古代と未来の架け橋になった気分

そもそも水引って何だろう? ご祝儀袋の飾り紐くらいの知識しかなかったけれど、そういえば、贈り物の包み紙や封筒にもあしらわれている。

聞けば、水引は飛鳥時代から伝わる日本の伝統文化だという。遣隋使の小野妹子が隋から戻った際に、隋からの返礼品に、海路の平穏を祈願した紅白の麻紐が結んであったのが始まり、という言い伝えが残っているとか。それ以来、宮廷の献上品には、紅白の麻紐を結ぶ習慣が生まれ、室町時代には、麻紐に代わり、紙縒りに糊をつけて固めた水引が使われるようになったという。

品物に結ぶことで、それが未開封であることを示すとともに、邪気を払い、贈り物を清めるとされる水引。贈る人と受け取る人を強く結ぶという意味もあるらしい。

新しい年へと向かう時機に水引とふれあう。それはまるで、時空を超えて受け継がれてきた人々の思いを未来へとつなげる営みのよう。伝統文化の奥深さを知り、思わず背筋がしゃんと伸びる。水引と向き合い、語らう時間は、古代と未来が交信するとき。あたかも自分が双方の架け橋になっているような気分になる。

紅白の水引をねじり、「梅結び」を添える

この水引のしめ飾りが自分でも作れると聞いて、心がときめいた。しめ繩は、紅白の水引をそれぞれ束にしてねじり、赤の束に白の束を沿わせるように巻きつけて作る。一本一本の水引は細くて華奢なのに、束にしてねじるととても丈夫になる。繩に仕上げていくなかで、水引そのものがしなやかに変化していく。まるで生きもののように。

しめ繩に添えられた飾りも水引。早春から花を咲かせる縁起のよい梅をモチーフにした「梅結び」だ。そこに添えられた稲穂には「豊作祈願」、南天には「難を転じる」の願いが込められている。

それぞれの意味に思いをめぐらせながら、心静かにしめ飾りを作る。そのわたしは、せわしなく街中を歩いていた昨年のわたしとは、違う。春支度は、こんなふうに。新年は、こんなふうに。丁寧な暮らしへの小さな一歩を踏み出した気がする。

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このストーリーの題材となった、しめ飾りは、「迎春の梅結び 紅白水引のしめ飾り」のキットとして、Craftie Homeで販売しています。

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